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RNRCミラー  

電車型パン工場







みんながハムスターみたいな目をして僕の方を見つめている。あれ?どういうことだよ。これはあまりにも酷いんじゃないかな、ジム。原稿だってちゃんと見せたじゃないか?軽い打ち合わせだったしただろ?僕はこういう予想外の展開に弱いんだ。僕は助けを求めてジムの方を見た。けれど、ジムだってハムスターだ。僕に成す術はなかった。情けない尺取虫は目の前の道をなくし、すがりつく場所を求めて頭を垂れた。そうするしかなかった。
「隆志、ヨッテルンジャナイ?」
ジムが言った。

ジム、それはアメリカンジョークなのかな?


まず、僕のことを話そう。もちろんこの話は一応は僕とジムが主人公なわけだし、そのくらいしたってかまわないと思う。
僕は外国人が好きだ。特に、日本在住の外国人が。なんたって、外国人は面白い。決して、観察対象とかそういう意味で言っているんじゃなくて、本当にそう思う。外国人の名前が好きだし、アメリカンジョークの馬鹿っぽい退屈さが好きだ。そう、僕は元来馬鹿っ”ぽい”ことが好きなんだ。僕はビラ配りのビラは受け取らないたちなんだけど、ひょろっとしたイギリス人なんかが英会話教室のビラを配ってたりするとつい受け取ってしまう、それくらい外国人が好きなんだ。でも、僕が外国人好きになった一端を担っているのは、やっぱりジムなんだろうなと思う。
僕の話はこれくらいにしよう。これ以上はきっとほとんど意味のない話になってしまうだろうから。 最後にこの話についてちょっとだけ言っておこう。この話は僕とジムとほんの一握りの馬鹿っぽい友達の、いかにも馬鹿っぽい小話だ。



ジムから小学校の同窓会の案内が来たのは先週のことだった。久しぶりに見たジムの字はやっぱり達筆で、時候に挨拶にはじまり同窓会の日時や場所なんかが淡々と書かれてあった。そして、最後の行には一際ジムらしい字で「隆志、同窓会の始めの挨拶をお願いできるよね。タノミマース。ファイト!」と。僕はあんまり乗り気じゃなかったんだけど、これを見た瞬間あるしょうもない演出を思いついてしまっていた。それはかなりしょうもないけれど、みんなが好きそうな馬鹿っぽい演出だった。それをやりたいがために、僕は挨拶を引き受けた。僕は本当に馬鹿だったのかもしれない。


その日、僕らは階段掃除だった。いつものようにやる気をなくした僕らはT字型ホウキを早々と掃除用具入れに直し、いつのようにあれを始めた。あれって言うのはあれだ。グリコ、チヨコレイト、パイナツプルのあれ。あれの名前はなんだったっけ?忘れてしまった。というか、むしろ名前なんてついていなかった気がする。僕らにとってあれはあれで十分だった。あれやろうぜ。
「うっしゃ、いくぞ。3階までな。」
「おっけーおっけー。」
そうやって、あれが始まりかけているとき、一階の廊下掃除だったジムがやってきた。
「なにかやるの?ボクモイレテヨ。」
そのころ、ジムはアメリカから越して来たばかりで、まだ今みたいに日本語がペラペラってわけでもなかった。ボクモイレテヨ。てな具合だった。それに、”あれ”のルールも知らなかった。
「まぁとにかく、パーで勝ったらパイナツプルで6段、チョキで勝ったらチヨコレイトで6段、グーで勝ったらグリコで3段。これだけ覚えてたらいいよ。」
僕が一通りルールを説明し終えて最後にそう言うと、ジムはニカッと笑って
「オーケー。オーケー。大丈夫。6段、6段、3段ね。」
と言って頷いた。そう、ジムはいつもニカッと、本当にニカッ笑った。
それからいつも通り、あれが始まった。始めは僕がひとり勝ちして、チヨコレイトで6段進んだ。順調な滑り出しだ。でも、いつもと違ったのはその後だった。
「じゃんけんポン。」
グー、グー、グー、パー。二回目の勝負はジムの一人勝ちだった。
「僕の勝ちだ。ヤッタネ。」
そう言うと、ジムはうれしそうに足取り軽く、階段を登り始めた。
僕は、上から見ていたからか、その光景をよく覚えている。
ジムが一段目の階段を上る。
「パ」
そしてもう一段。
「イ」
さらにもう一段。
「ナポー。」

ナポー?

パ・イ・ナポー?

ジムの発音は完璧だった。でも、それはパ・イ・ナ・ツ・プ・ルじゃなくて、まさしく本場のパイナポーだった。
階段の下にいた剛史と拓哉の目が点になったのを覚えている。目をくりくりさせてハムスターみたいだった。きっと、僕もそんな目をしていたんだと思う。なんだか尻切れトンボになって次の一歩を踏み出せずに僕のほうを向いていたジムの頭の上にはクエスチョンマークがちょこんと乗っかっていた。でも、一瞬あった後、ジムの上のクエスチョンマークがビックリマークに変わったかと思うと、ジムはやっぱりニカッと笑って、
「ソーリー。ソーリー。間違えたね。」
そういうと、ジムは階段をピョンと飛び降りて、そのまま階段から離れ少し助走を取った。ジムがどうするつもりかもわからないまま、僕らはその場に立ち尽くしてジムを見ていた。が、次の瞬間、ジムは階段めがけて走り出した。
「パ」
ジムが声を上げる。ジムの足が廊下の床を蹴り、2段目に着地する。1段飛ばしだ。
「イ」
4段目。ジムの顔がどんどん迫ってくる。
「ナポー!」
またしても完璧な発音で最後のナポーを言い終えたとき、ジムは僕の隣まで来ていた。そして、くるっとこっちを向いて、
「パイナポーは6段だったね。」
って言って、またニカッと笑った。さすが本場だ。僕はそう思った。
それから僕ら4人は顔を見合わせると、みんなでニカッて笑いあった。今度は「お主も悪よのぉ越後屋」みたいな日本流で。
結局、その日の勝負はジムが勝った。そして、その日はもう誰もパイナツプルなんてダサいことは言わなかった。僕らは下手糞な英語でパイナポーって叫びながら、1段飛ばし、時には2段飛ばしなんかしたりして、階段を上った。みんなずっとニヤニヤしていた。
「パ・イ・ナポー!」
最後、勝負を決めたのは、ジムの3段飛ばしだった。



それ以来、僕らのクラスではパイナツプルなんていうやつはいなくなった。みんなジムの真似をして「パ・イ・ナポー!」の3段とびで思いっきり飛ぶようになった。さらに僕らはジムの本場の発音も真似した。「パーで勝ったらパ・イ・ナポーの3段とびで、何段飛ばしても良い。ただし、発音はできる限り綺麗にすること。」ってのが僕らの暗黙の了解になっていた。僕は気がつくと”apple”はちゃんと発音できないくせに”an apple”の発音は完璧になっていた。結局ナポーが大事だったのだ。



僕は心のほか緊張していた。みんなに会うのは久しぶりだったし、軽々しく始めの挨拶を引き受けたものの、最後の演出がうまくいくかどうか不安だった。みんなあれのことを覚えているだろうか。しょうもないって思わないだろうか。
そんな不安を抱えつつも、僕は着々とよくある同窓会の挨拶をこなしていた。思い出話を話し、自分の近況についても少し話したりした。みんなが思い出してくれるようあれの話しも少し入れた。そして、そろそろいいだろうと頃合を見計らってこう続けた。
「あまり長くなってもなんですので、この辺で乾杯といきましょう。」
僕はもうかなり緊張した手つきで、隠していたパイナップルジュースを引き寄せた。もし失敗しそうになってもジムがなんとかつないでくれる、そう心に言い聞かせた。そして、思いっきりグラスを掲げ、ひょうきんな表情を作って精一杯の発音で叫んだ。

「パイナポー!」

みんなの表情が一瞬でハムスターになった。僕はどうしていいのかわからなかった。ジムが何人かサクラを作っていてくれるだろうと心の隅で期待していた。でも、世の中はそんなに甘くはなかった。よく考えてみろよ。酷い滑りっぷりじゃないか。なんで、こんなしょうもないことを考えたんだ。もう一人の僕がそう囁く。僕はもうどうしようもなくなってジムを見た。でも、ジムもハムスターだった。そして、近寄ってきて僕にとどめを刺した。

「隆志、ヨッテルンジャナイ?」

僕はもう何も考えられなかった。頭の中に修正液をぶちまけてやりたかった。僕が黙ってうつむいていると、ジムがみんなが座っている方に向き直った。僕の弁解でもするんだろうか?なんでもしてくれ。そう思っていた。が、僕はジムがパイナップルジュースを持っているのを見落としていた。ジムはグラスを掲げ叫んだ。

「パイナポー!」

僕は一瞬わけがわからなかった。なんだよ、ジム。覚えたいたんじゃないか。それならもうちょっと早くやってくれればいいじゃないか。ほんとうに泣きそうになりながら、尺取虫は顔を上げた。顔を上げた尺取虫の目の前ではみんなが目いっぱい微笑んでグラスを掲げていた。
「パイナポー!」
みんなが叫んだ。発音は健在だった。完璧なナポーだった。なんだよ、そういうとか。ひどいじゃないか、みんなして僕を騙したのかよ。僕は力の抜けかかった手でグラスを少しだけ掲げ、消えそうな声で呟いた。パイナポー。
みんなが笑っていた。僕は満塁ホームランを打った野球選手みたいに頭をパンパンされながら席に戻った。僕は少し泣いていた。泣きながらぎこちない笑みを浮かべていたと思う。
席に戻った僕は隣に座ったジムにやっぱり泣いているのか笑っているのかわからない顔で文句を言った。
「これはアメリカンジョークにしては酷すぎるんじゃないかな?」
ジムはニカッと、やっぱりニカッと笑って言った。
「ノンノン、これはジャパニーズジョークだよ。」
笑っているはずのジムの目が少し冷ややかに見えた。


 

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