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RNRCミラー  

ブロイラー養鶏舎






高級料亭が並ぶ通りの裏通り.そこに皆に愛される小さな店がある.ひっそりと落ち着いた佇まい.気付かずに通り過ぎてしまいそうなその店は,「創作クイズの店」.心の籠もった手作りのクイズが人々をもてなす店.


[1話 日常]

創作クイズの店には,今日も店を愛する人達の笑顔が溢れている.

店の白木作りのカウンターに立つのは,常連から「オヤジ」と親しみを込めて呼ばれている店主と,「テツ」と呼ばれる今年で35歳になる修行中の見習いクイズ職人だ.
白髪頭に捩り鉢巻を巻いたオヤジは,今年で75歳,クイズ職人暦55年を迎えるが,まだまだ元気で衰える様子はない.オヤジを手伝うテツは,頬に大きな傷跡がある強面であり,無口だが,実直で真面目に働く男.しかし,テツはまだ修行中の身であり,クイズを出すことはない.
カウンターに並んだ八脚の椅子は,広すぎず狭すぎずの絶妙な間隔に設えてあり一人でクイズを楽しむ客も,仲間とクイズを楽しむ客も,お互い干渉し合うことなく,それぞれがそれぞれの時間を過ごすことができる.
壁に掛かったメニューが書かれた木の札は「アタリメ」,「日本酒」,「水」,「クイズ」の四枚があるだけだ.クイズは勿論だが,それぞれがオヤジのこだわりのメニューだ.毎日築地で仕入れた新鮮な烏賊で作ったアタリメ,オヤジが直々に蔵元を巡って決めた福島の銘酒「腰ノ毛」,富士山の麓で汲んで来た湧き水.そして,クイズは古今東西のネタから客に合わせてオヤジが創作したクイズが握られる.

創作クイズの店は,今日も満席だ.

「やっぱりうまいねえ,ここのアタリメ.新鮮な烏賊から作ると違うもんだねえ」
「褒めたって,クイズ以外何も出ませんよ.山崎さん」
自慢の手作りアタリメを褒められたオヤジは満足そうに答える.
「それじゃあ,オヤジ.クイズ一つ握ってよ.そうだなあ…….今が旬のネタで頼むよ」「あいよ.郵政民営化で握りやしょう.いきやすよ.郵政民営化法案が,衆議院で2005年7月5日に可決された時の賛成票と反対票の差はいくつでしょう」
「票差かあ.いくつだったっけなあ…….5票だったかなあ.いや,7票だったような」
アタリメを一口齧った山崎は,答えを決めあぐねていたが,思いついたように言った.
「よし,間を取って6票だ.どうだオヤジ」
「惜しいですなあ.正解は,5票ですよ.賛成233で反対228で5票差」
「いやー,惜しいなあ.答え出てたのになあ.やっぱりオヤジには敵わねえなあ」
山崎は御猪口に注いだ日本酒を飲み干した.

「オヤジさん,こっちにもお願いしますよ」
「へい,只今」
オヤジは山崎の前から,素早くやって来た.
「あいよ.何握りやしょう.吉田さん」
「えっ,私,前に一度しか来たことないんですが,覚えているんですか」
「アッシもクイズで頭を鍛えてますからねえ.物覚えは良い方なんですよ.前に来られた時は,常連の川北さんと一緒でしたな.それで,お好きなネタは動物の分野ってことでよろしいですね」
一人で来るのは初めてで少し緊張気味だった吉田は,オヤジの言葉で打ち解けた.
「オヤジさん.凄いですね.あの,それで,クイズなんですけど,ちょっとねかせたネタでお願いします」
「それじゃ,今日の一問目はこいつはどうだい.幼形成熟として有名な両生類で,一昔前にはペットとしてアルビノが好まれた動物は何だ」
「おおっ,懐かしい.それはアホロートルですね.合っていますか,オヤジさん」
「正解.ウーパールーパー,メキシコサンショウウオでも正解だな」
吉田は,嬉しそうな表情でテツに日本酒とアタリメを注文した.

「おう,オヤジ,こっちにはこってりしたネタで握ってよ」
「へい」
吉田の隣に座るお客に顔を向けた.
「久しぶりですね.丸和さん.今日は息子さんとご一緒ですか」
「オヤジ,息子だってよく分かったねえ.あっ,分かって当たり前だったか.後で,あのいつものやつ,息子にもやってよ」
「もちろんですよ.じゃあ,まず,丸和さんには,こってりしたネタでクイズを一問握りやしょう.ヒット曲には『赤城の子守唄』,『麦と兵隊』があり,ロイド眼鏡,燕尾服,直立不動で歌うスタイルで歌手は誰だ」
「東海林太郎だな.うん」
「さすがですねえ.当たりでさあ.いつも丸和さんには,すぐ正解を持っていかれちまう」 「いやー,オヤジ,相変わらずいい問題だ.今の一問は若いもんにゃ分からない味わいだねえ」 「それじゃあ,初めての息子さんにも一問握りやしょう」
この言葉で,賑やかだった店内は静まり,オヤジと丸和の息子に注目が集まった.オヤジは暫く息子を眺めた後「分かった」と呟き,『いつものやつ』を始めた.
「息子さん,名前は太郎だね.三人兄弟で姉一人,弟一人の二番目.昔から勉強は得意で,運動は少し苦手かな.今の職業は……,そうだな,ポストドクターか.でも,来年度から講師として大学で働くことが決まってるね.理学部の物理学科で専門は素粒子.それで,今日はそのお祝いで店に来たってところだな.クイズのネタとしては,うーん,物理学系も得意だろうけど,趣味の熱帯魚のネタの方が気兼ねなく楽しんで貰えそうだな」
店に来てつまらなそうな顔をしていた太郎の表情が一変した.
「えっ,せ,正解です.何故,分かったんですか.父から聞いたんですか」
店内の客たちは,予想通りに驚いた丸和の息子を面白そうに見ている.
「いや,何も聞いてないですよ.職業柄,お客さんの風貌や仕草から職業やら生まれやらを当てるクイズってのは,アッシの得意なクイズの一つでね.それじゃあ,早速だけど,一つ握りやしょう.頭ごなしにこいつなんかどうだい.淡水の河豚で,……」

創作クイズの店には,今日も店を愛する人達の笑顔が溢れている.


[2話 結婚]

「オヤジさん,また今度」
「へい,ありがとうございやした.お気を付けて」
オヤジは外まで客を見送ると,店先に掛かった暖簾を外しながら「今日はこれで終わりにするかね」と一人ごちて,店の中に戻った.カウンターには,今日最後の客となった若い男がアタリメを齧っていた.彼は,創作クイズの店の常連客の一人であり,常連の中では一番若く,オヤジと常連達からは,親しみを込めて「若」と呼ばれている.オヤジはカウンターに回り込みながら,若に言った.
「外はちょいと小雨が降ってますなあ.もうすぐ上がるでしょうから,それまでゆっくりしていってください」
テツは一週間のクイズ研修に行っているので,店にいるのはオヤジと若の二人.この店では珍しいことだ.
一人静かにスルメを齧っていた若だったが,意を決したように言った.
「オヤジさん,明日,知り合いの女の子が結婚するんだ」
「おう,そいつはめでたいじゃねえですか」
オヤジは,カウンターの中で片付け始めた手を止めて言った.
「いや,でも,その結婚は彼女が望んでする結婚じゃないみたいです」
「そいつはなんか穏やかな話じゃないねえ」
オヤジは店の後片付けをやめて濡れた手を拭きながらそう言った.
「彼女には結婚の約束をした男がいたんですが,彼女の両親の反対された挙句,仲を引き裂かれてしまいました……」
若は俯いて話を続けた.
「ほお」とオヤジは相槌を打った.
「それで,今朝,その彼女から『親が決めた結婚相手と結婚させられることになった』と電話が掛かってきました」
「その彼女の好きな男ってのは,若のことじゃあ……」
若の様子を見てオヤジはそう言ったが,若が遮るように言った.
「あっ,いや.ええと.俺の親友です.うん,親友です.親友からこの話をききました」
否定はしているが,これでは自分のことだといっているようなものだ.
「そうかい.親友のことか.電話掛けるってこたあ,その彼女は,まだ親友のことが好きなんだろうな.ところで,その親友とやらも彼女の事が好きなのかい」
「好きだと思います.いや,絶対好き,……だと思います」
若はそう言った後,「でも,今さらどうする事もできないし,……」と小さな声で付け足した. 「そうか.悲しい話だな.よし,クイズを握ってやる.若の親友とその彼女のために,このクイズは俺のおごりだ」
オヤジは若の目を見つめてクイズを出した.
「ある所に愛し合う男女がいましたが,女は親の都合で望まぬ結婚をさせられることになりました.彼女は結婚式の前日に愛する男に電話を掛けました.彼女は何のために電話を掛けたのでしょう.そして,彼女が今,待っているのは何でしょう」
「おっ,オヤジさん…….俺,彼女の所に行ってくるよ」
「おう,若,それで正解だ.早く行ってきな」
若は,扉を開け放ったまま店を飛び出した.開いた扉から見えた外では,降っていた小雨は既に上がり,雲間から漏れた月明かりが,道路の水溜りを照らしていた.


[3話 テツ]

オヤジとテツとの出会いは,5年前に遡る.赤坂に巨大ビル「赤坂ヒルズ」建設の計画が持ち上がった時のことだ.店が赤坂ヒルズの建設予定の敷地内に入っていたため,土地の明け渡しを求められたが,オヤジは了承しなかった.そこで,店への嫌がらせとして送り込まれたのがテツだ.当時のテツは,ある暴力団で若頭を務めており,将来の幹部と目される若手のホープであった.

「おう,邪魔するぜ」
乱暴に引き戸を開けて店に入ってきテツは,店の中を見渡した後,オヤジを睨みつけてそう言った.
「休みって書いてあんのに人いるじゃねえか.おい,ジジイ,お前が店の主人か」
本来ならその日は営業日であったが,立退きを迫って嫌がらせに来るだろう予感したオヤジは「本日臨時休業」の張り紙をしておいたのだ.クイズ職人暦50年のオヤジにとって,「今日どんな人が来るのかクイズ」を当てることなど容易い.オヤジはテツをジロリと睨むと,全てを悟ったように言った.
「例の立ち退きの話だな」
「分かってんじゃねえか.なら話は早え.こんなしけた店畳んで,出て行ってもらおうか.何が『創作クイズの店』だよ.訳分かんねえ店やってんじゃねえよ」
店を貶す言葉で,睨みつつも優しさを含んだオヤジの眼差しは一変した.
「若いの.言葉には気を付けろ」
オヤジの思いもよらない鋭い眼差しにたじろぐテツ.後にテツはこの時のオヤジの表情を評して「この世に鬼というのがいるのなら,きっとあんな表情だろうなあ」と語っている.数々の修羅場をくぐり抜けて来たテツだが,この時は生きて帰れないと思ったそうだ.しかし,若手のホープのテツがここで逃げる訳にもいかない.手ぶらで事務所に帰れないのだ.テツは勇気を振り絞り,裏返りそうになる声を抑えて言った.
「ま,まあ,いいけどよ.おい,ジジイ,それなら俺にクイズ出してみろ.俺が答えられないクイズを出してみろよ.くだらねえ店だってこと教えてやるよ」
実は,小学生時代は「クイズ博士」とあだ名を持ち,今では「裏社会のクイズ王」という通り名を持っているテツ.今までクイズの勝負で負けたことはない.
「俺のクイズの店を貶すとは,いい度胸じゃねえか.俺はクイズ一本で生きてる人間だ.クイズの勝負を挑まれて後にゃ引けねえ.受けて立とうじゃねえか.お前が,これから出す問題全てに答えて,この店がくだらねえって証明できたら,店を明け渡してやる」
オヤジの眼差しに生きて帰れないと思ったテツにとって,これは願ってもいないチャンスだ.
「ほ,本当だな」
「ああ,本当だ.その代わり,答えられなかったら二度と嫌がらせに来るんじゃねえ」
「いっ,いいだろう」
端からテツに約束を守るつもりはない.負けても嫌がらせを続ければいいし,むこうが負けたらったら店を明け渡す.これ程おいしい話はない.
オヤジは,テツを暫く眺めた後,いつもの優しい表情に戻り,「分かった」と呟くと,静かな口調でクイズを始めた.
「よし,一問目だ.東北地方のある寒村に,昆布漁師をして生活する貧しい一家が暮らしていました.父親は女を作って家を出て行きましたが,母親は昆布漁師をしながら,女手一つで一生懸命に六人の子供達を育てていました」
「おっ,おい,ジジイ.何の話してんだよ.誰がそんな話しろって言ったんだ.早くクイズ出せ」
テツは焦ったように大声を上げた.しかし,オヤジは静かな口調で答える.
「若いの,黙ってろ.うちの店は早押しクイズはやってねえんだ.問題は最後まで聞いても損はねえ.続けるぞ.さて,六人の子供の中で一番親思いの四男坊は,これ以上母親に負担を掛けたくないと中学を卒業すると,家を飛び出して行った.その時,四男坊が置手紙として,昆布に書いた文字は何だ」
「おい,ジジイ.その子供って俺のことじゃねえか.どこでそんな話を聞きやがった」
誰にも話したことのない自分の過去を語るオヤジに混乱し,怯えるテツ.オヤジは静かな口調で答える.
「俺はクイズ一本でここまでやってきたんだ.お前の過去を当てるクイズくらいわけねえ.さあ,答えてみろ」
「き,『希望』だ」
テツは戸惑いながらも答えた.オヤジは「おう,正解だ」と告げ,さらにクイズを続けた.
「さて,母親は去年亡くなったわけだが,この子は死に目に会えなかった.最後まで出て行った子供を心配していた母親が,息を引き取る寸前,最後に言った言葉は何だ.看取った兄弟達から聞いているはずだ」
自分と兄弟しか知らないはずのことが,オヤジの口から語られる恐怖に慄くテツ.自分がクイズの勝負を挑んだ人は,全く歯が立たない相手だった.小柄なオヤジが,大きく見える.テツに向けられたオヤジの瞳は,飲み込む深さ.全ての物を受け入れ,昆布を育む太平洋だ.
「……『テツオは人様に迷惑掛けず,生きているかねえ』」
敵わないと観念したテツは,答えることしかできない.オヤジは「正解だ」と告げ,クイズを続けた.
「それじゃあ,こいつが最後の問題だ.これに答えられたら,終わりだ.この店を明け渡してやる.いくぞ.テツオは死んだ母親に胸を張れる生き方をしているか.答えろ」
俯くテツから嗚咽が漏れた.
「…….オヤジさん.そのクイズ,今は答えられねえ……」
「……」
「もっと後,……20年後,いや30年後に答えさせちゃくれねえかな」
「……そうか.分かった.いつまでも答えは待ってやる」
テツは俯いたまま席を立ち,引き戸に手を掛け,振り向かずに言った.
「オヤジさん.済まなかったな.それから…….いつかこの店に,昆布漁師の四男が,坊主頭でやって来たら雇ってやってはくれねえか」
「おう,その時を楽しみにしてる」
テツは店を出ると,丁寧に引き戸を閉めた.

その後の不景気の影響で,赤坂ヒルズの建設の話は立ち消えとなり,オヤジは店にやってきた坊主頭の男を雇った.


高級料亭が並ぶ通りの裏通り.そこに皆に愛される小さな店がある.ひっそりと落ち着いた佇まい.気付かずに通り過ぎてしまいそうなその店は,「創作クイズの店」.心の籠もった手作りのクイズが人々をもてなす店.


 

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